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「伊豆の踊子」川端初心者と文学初心はこれから始めるべし! [本]

結論まで書いていある初心者向け川端小説

伊豆の旅行記の中で何度か登場した川端康成の短編小説「伊豆の踊子」をこれまでblogでレビューしていなかったことに気が付いたのは旅行から戻ってきてからでした。これまでそれなりに川端の作品を紹介してきたのに、肝心な短編を紹介していなかったとは、不覚。ということで、今年最後の本のレビューは川端康成の「伊豆の踊子」です。

「伊豆の踊子」は「雪国」と同じくらいメジャーで、多くの人に読まれている川端作品だと思います。特質すべきは川端康成特有の「物語の結末を書かない」という法則から逸脱して、しっかりと結末まで書かれているという点です。読者に「これから先は察してくれ」というスタイルが主流の川端作品の中では、短編&結末有りという非常に親切な作品で、初心者さんにはお勧めの一冊です。誰もが一度は教科書などで読んだことがあるであろう作品なので、今更あらすじを紹介するまでもないかなと思いますが、一応紹介したいと思います。

20歳の高等学校生の主人公は青年特有の精神的潔癖さから自分という存在に対し嫌悪感を持ちながら伊豆半島を一人旅していた。修善寺に着く頃から旅芸人の一団にいる年若い美しい踊子に心を奪われ、下田までの道中を一緒に行きたいことを申し出る。将来を約束されたエリートの高等学校生と、世間の最下層とみなされ差別を受ける旅芸人。そんな世間体を越えて一人の人間として旅芸人たちの少しおせっかいな優しさに触れていくうちに、主人公の心は癒されていく。

もうこれぞ「ザ・青春小説」ですよ!主人公は20歳の青年で、学生らしくまだ世間に馴染む一歩手前のあの甘酸っぱい心を持て余した青年です。今風に表現するなら「中二病を完全に拗らせ、勝手に自分を否定しちゃう自意識過剰系兄ちゃん」です(笑)。頭の中ぐるぐるしっぱなしでも引きこもらずに一人旅をする行動派なところは、現代の青年との違いですかね。
主人公が踊子=17,18位の健康的で愛らしい娘に心奪われるも、実は化粧で大人びていただけで実年齢は14歳と、女性を見る目も中途半端でまだまだ若輩者なんですよね~。そんな青年が踊子達旅芸人一座が夜遅くまでお座敷に出ていると、踊子の身を案じて勝手に落ち込んだり、早めに上がると気分が良くなったりと本当に分かりやすいんです。もう読んでて恥ずかしくなる位ですよ!

主人公の行動にニマニマしつつも、当時の身分差別とまではいかなくて、旅芸人に対する差別が小説の中で頻繁に登場します。特に強烈なのは村の入り口に張られている張り紙で、そこには「物乞い旅芸人入るべからず」とあります。当時どんな目で旅芸人が見られているかを的確に表現したものです。厳しい世間の目にさらされながらも強く逞しく生きる旅芸人一行の姿と、決して卑屈になることなく、人が持つ優しさや気遣いと純粋な心根の美しさで主人公に接してくれる踊子の無償の愛情に徐々に自分自身を肯定できるようになっていく主人公の心の変遷は、川端が最も得意とする自然と心象風景が寄り沿う、美しく緻密な表現で繊細に描かれています。日本語が持つ美しさを最高レベルまで昇華した文章とは正に川端の書く文章のことを指すのでしょう。

下田で踊子たちと別れて一人東京に帰る主人公が、人の好意を受け入れるようになり、また人に親切にすることが当たり前であるという境地に達することで、新しく生まれ変わることが出来た喜びの表現はそれまで鬱屈していた分解放されたのか結構激しいです(苦笑)。似たようなテーマをお扱った小説は古今東西山ほどありますが、やはり日本語の美しさと繊細な心の機微を描き切った「伊豆の踊子」は、青春文学の最高傑作です!余談ですが私が持っている文庫は新潮文庫の物で、川端とも親交のあった三島由紀夫様が作品解説を寄せています。こちらも一読の価値があるので、ぜひ購入する際には新潮文庫版をおススメしたいと思います。

伊豆の踊子 (新潮文庫)

伊豆の踊子 (新潮文庫)

  • 作者: 川端 康成
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/05/05
  • メディア: 文庫

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