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アーサー王物語の終焉 サトクリフ著「アーサー王最後の戦い」 [本]

素晴らしい治世の終焉の物語


アーサー王最後の戦い―サトクリフ・オリジナル〈3〉 (サトクリフ・オリジナル (3))イギリスで今でも圧倒的な人気を誇るアーサー王。今回のEU離脱問題の時も「いつかブリテンが苦境に陥った時に私は戻ってくるだろう」と言って去ったアーサー王復活待望論が出た時はかなりビックリしましたが、それだけ人々の生活に馴染んでいる昔話なんだなと感心しました。今回は以前取り上げた英国児童文学界に燦然と輝くローズマリ・サトクリフのオリジナルアーサー王伝説3部作の1作目「アーサー王と円卓の騎士(レビューはコチラ)」の続編であり3部作完結編に当たる「アーサー王最後の戦い」をご紹介します。

1作目と3作目を紹介して2作目はどうしたのかと疑問に思う方もいらっしゃるかと思いますが、2作目に当たる「アーサー王と聖杯の物語」は他の2冊に比べると中身が薄く、3作目の冒頭に内容が全部書かれているので、読まなくても本を読み進めていくのに何ら支障がないので飛ばします。もちろん聖杯を求めて円卓の騎士達が数々の冒険をしていく話がお好きな人は2作目もおススメです。では、3作目にして物語の締めくくりとなる本作のあらすじをどうぞ。

聖杯を求めて多くの円卓の騎士が旅だったものの命を落としたり重傷を負ってしまうなど栄光の日々は完全に過去のものとなってしまっていた。アーサー王は自らも年を取り斜陽となった国勢に不安を感じ始める。そんな時アーサー王の不義の息子モルドレッドが成長し円卓の騎士になる。しかしモルドレッドは母親から王に対する憎しみを聞いて育った為、王を亡き者にし王国の滅亡させるために来たのだった。モルドレッドは手始めに王妃グウィネヴィアとアーサー王の一番の親友であり最高の騎士である湖のランスロットの不義の愛をアーサー王に告発することから始めるのだった。

今作はまさに滅亡の物語です。かつて栄光を究めたアーサー王は王の息子でありながら絶対悪として対峙し、モルドレッドとし烈な戦いへと突入します。絶対的正義の王であるアーサーが、自らの過ちから生を受けた息子にして悪の象徴であるモルドレッドによって円卓の騎士達と厚い友情を失い、王妃を自らの手で処刑しなければならない立場に立たされ、最後は国も失います。身から出た錆ではありますが、この滅びもかつてマーリンによって予言されていた物であり避けられない運命としてアーサー王は理解しているという、こんなに悲しい話はありません。

このモルドレッドの策略によって全てを失ったのはアーサー王だけではなく、アーサー王の騎士の中で最高の騎士の名誉を受ける湖のランスロットも悲劇の道をたどります。誰よりも忠誠を誓い、これまで何度となく王と王妃グヴィネヴィアの窮地を救ってきた英雄も「アーサー王を裏切り、王妃と通じている」という騎士達による王への直訴により、王への絶対の忠誠を約束しながらも円卓の騎士を返上し自らの領地に戻ることになります。後日アーサー王に居城の猛攻を受けるも、アーサー王がモルドレッドとの激戦でピンチに陥ると軍を率いて王のもとに駆け付けますが助けることが出来ず、ランスロットは忠誠を誓った王の消息不明により騎士を捨て信仰の道に入り、王妃グヴィネヴィアの最期を見届け生きる気力を失ってしまいます。

また、ランスロットの友人にしてアーサー王の円卓の騎士の中でも最も篤い忠誠心を持つ騎士ガウェイン(モルドレッドの異父兄)もモルドレッドの策略により全ての兄弟を殺され、ランスロットに裏切られたショックからアーサー王をランスロット討伐に駆り立てますが、モルドレッドの策略に気付きガウェインはかつての友としてランスロットにアーサー王の助けを求める手紙を残し落命します。全てを失ったガウェインの手紙は実に涙を誘い、後日幽霊になってまでアーサー王を助けるべく戻ってきます。

王妃グヴィネヴィアとランスロットの深い愛情は人として許されるべきものではないと分かりつつも、王妃に性別を超えた同士の様な愛情を持ち、ランスロットは親友にして筆頭騎士とアーサー王にとって両方とも大切な人。その二人の関係を見て見ぬふりをすることによって誰も傷つけることなくやり過ごしてきたにも関わらず、公の場で追及されることによってそれも許されず立場上二人を処分しなければならなくなるという最悪の事態に王は訴え出た騎士達に密かな怒りを覚えます。この辺りはキリスト教の教義もあり、見逃せないながらも人の心は決して思い通りにはいかないということを語っています。同じくランスロットも不義の愛に生きるということで神に見放されています。

結局誰もが幸せになることなく不幸な終焉を迎えてしまいますが、正義の王アーサー王は満身創痍の体を癒すためアヴァロンに向かいます。その時に残った騎士に向かって冒頭で紹介した言葉を残して去っていきました。サトクリフのアーサー王物語はバラバラな物語を一度集めて再構築し、全てのストーリーがしっかりと筋が通るものへと整えることに成功しています。こういった神話や民話の場合、前後関係がおかしなことになっていてわかりづらい物が多いですが、サトクリフの力によって綺麗にまとめられ読み手の心に違和感なく入ってきます。現在のヨーロッパの基本的価値観の騎士道とは何かを学ぶには最適の教材になるかと思いますので、騎士道精神とは何かを知りたい人は是非手に取ってみてはどうでしょうか。アーサー王が聖剣エクスカリバーを携えて復活する日を心待ちにしたいと思います(笑)

アーサー王最後の戦い―サトクリフ・オリジナル〈3〉 (サトクリフ・オリジナル (3))

アーサー王最後の戦い―サトクリフ・オリジナル〈3〉 (サトクリフ・オリジナル (3))

  • 作者: ローズマリ サトクリフ
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2001/04
  • メディア: 単行本
アーサー王と円卓の騎士―サトクリフ・オリジナル

アーサー王と円卓の騎士―サトクリフ・オリジナル

  • 作者: ローズマリ サトクリフ
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2001/02
  • メディア: 単行本

アーサー王と聖杯の物語―サトクリフ・オリジナル〈2〉 (サトクリフ・オリジナル (2))

アーサー王と聖杯の物語―サトクリフ・オリジナル〈2〉 (サトクリフ・オリジナル (2))

  • 作者: ローズマリ サトクリフ
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: 単行本

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