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ローマン・ブリテンシリーズ第二作「銀の枝」 [本]

裏切りと正義を求める強い心の物語


銀の枝 (岩波少年文庫)前回ご紹介した「第九軍団のワシ」に続くローマン・ブリテンシリーズ第二作の「銀の枝」をご紹介します。作者はもちろんイギリスの児童文学の世界の巨匠ローズマリ・サトクリフです。勿論前作の設定を色濃く引き継いでいるので、先に「第九軍団のワシ」を読んでおいた方が楽しめます。

ローマ帝国軍の軍医見習いのジャスティンは新しい赴任地ブリテンで親戚筋にあたるフラビウスと偶然出会い、意気投合する。生粋の軍人であるフラビウスとジャスティンはブリテンの皇帝の側近アレクトスが皇帝への裏切りに気付くも、皇帝暗殺を止めることが出来ず、そのまま命を狙われることとなり軍を脱走することに。不本意な形で軍を去った二人はローマ軍人の魂を捨てることなく、打倒アレクトスの名のもとに地下組織を作り、反撃ののろしを上げる!

主人公は前作の主人公だったマーカスの兄弟の子孫の軍医ジャスティンと、マーカスの直系子孫にあたる百人隊長フラビウスになります。ジャスティンはローマ帝国の大陸出身で、ブリテンに配属された先で偶然フラビウスに出会い、イルカの家紋の指輪(前作でマーカスがつけていたもの)で彼らが血縁関係にあることが偶然分かります。マーカス譲りの熱い軍人魂を持ったフラビウスと軍人家系に生まれながらも軍人ではなく、医者の道を選んだ心優しいジャスティン。専門の領域がしっかり分かれていて、お互いがお互いを尊重し意見を出し合いながら岐路でベストの選択を重ねていく様子は、血縁関係を越えた友情で結ばれ「信頼」とは何かを雄弁に語っています。

そして2人を徹底的に追い詰める悪玉がブリテンの皇帝の側近アレクトスです。平和だったローマの属州にローマ人の敵である海のオオカミことサクソン人を味方に引き入れ、皇帝暗殺とブリテンの乗っ取りに成功した手腕の持ち主で、皇帝の座を手に入れるためには敵をも味方に買収する悪質さで”悪人レベル”がかなり高い生粋の悪人です。そんなアレクトスに命を狙われながらジャスティンとフラビウスはローマ軍がブリテンを奪還するために本国に情報を流し、アレクトスに叛意を持つメンバーを集めて密かに軍団を作ったりと地下組織のメンバーを率いて、いつか来るその日に備えて日々を過ごしていきます。

そして前作で封印された「第九軍団のワシの旗印」が今回物語に再登場し、アレクトス率いる反乱軍に対してフラビウスらが率いる地下組織のメンバーの軍団の旗印として重要なローマの魂、精神的象徴として登場します!かつてマーカスがあれほど強く望んだワシと父が指揮した軍団の復活を彼の子孫が立派にやってのけ、その活躍でローマの危機を救う偉業を成し遂げるシーンは感動ものです(感涙)。

ジャスティンとフラビウスが過酷な環境の中でも心折れることなく幾多の困難を乗り越えることが出来たのは、自分達の為に命を代償として支払った人や、わざと厳しい命令を出してアレクトスの手が届かない場所まで飛ばしてくれた人など多くの人達の助けがあったからだということを十二分に理解しているからです。誰かの希望を託され、時期が来たらそれを次代につないでいく。それがいかに重要な使命であるかを理解している二人は、強い友情と高い目的意識で決して諦めることなく前を向き続けます。前作ではマーカスとエスカの冒険物語の色が強かったですが、今回の「銀の枝」では主人公も二人になり、登場人物も増えて個人のよりも軍への忠誠心や団結力等集団としての色が強く、リーダーシップやフォロワーシップ等組織力の重点が置かれていて、物語のテイストの違いが良いコントラストになっています。

「銀の枝」で何とかブリテンを取り戻したローマ軍も時が経つにつれて衰退の一途をたどり、次作「ともしびをかかげて」では、ローマ軍がブリテンから撤退するところから始まり、フラビウス達の子孫である主人公アクイラが、ブリトンに生きるローマ軍人という苦しい立場から苦悩に満ちた波乱の人生の物語へと続いていきます。「ともしびをかかげて」はカーネギー賞受賞作でもある傑作です。ぜひこの後の物語が読みたい方はお手に取ってみてください。「第九軍団のワシ」や「銀の枝」よりもグッと大人のより厳しい個の世界が展開されます。(「ともしびをかかげて」のレビューはコチラ。)

銀の枝 (岩波少年文庫)

銀の枝 (岩波少年文庫)

  • 作者: ローズマリ サトクリフ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2007/10/16
  • メディア: 単行本
第九軍団のワシ (岩波少年文庫 579)

第九軍団のワシ (岩波少年文庫 579)

  • 作者: ローズマリ サトクリフ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2007/04/17
  • メディア: 単行本

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