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大人向け児童書 サトクリフ「王のしるし」 [本]

貴方には生きる目的がしっかり見えてますか? 


王のしるし(上) (岩波少年文庫)これまで何度か登場しているイギリスの児童文学作家ローズマリ・サトクリフの「王のしるし」をご紹介します。中学生以上が対象の児童文学ですが、その世界とテーマに心打たれるのは多分人生の不条理に何度か打ちのめされた経験がある大人の方ではないかと思われる程、大人テイストの強いビターな児童書です。では、あらすじを簡単にどうぞ!

今から2000年前のスコットランド。ローマの奴隷剣闘士フィドルスは、王位を追われ盲目となったダルリアッド族の王マイダーの替え玉として雇われる。マイダーから王位を簒奪した女王リアサンへの復讐と王位奪還を目標にフィドルスは一族を率いて戦いへと進んでいく。過酷な戦いを通じて真の王へと成長していくフィドルスの前に、大きく立ちはだかる困難の数々。マイダーとの約束を果たすべく、フィドルスの「王マイダー」としての人生の行方はいかに。

物語のベースは凄く「物語」をしていて、7年毎に入れ替わる王のシステムや奴隷が王様の替え玉になったり、悪の女王への復讐だったりと”いかにも”なつくりです。ここで終わると「どこかで見た設定が沢山ある普通の小説」で終わるのですが、これがサトクリフが描くと全く別物になるから不思議です。

親友の命と引き換えに「自由」を手にしたものの、手に入れたそれは生きる目的を持たないフィドルスにとっては苦しく、奴隷とさして変わらないという現実に絶望し、商人シノックが持ってきた王の替え玉になるという話を受けたことからフィドルスのマイダーとしての人生が始まります。それと同時に、フィドルスがフィドルスらしく生きるためにはマイダーとして(他人の人生を)生きるという何とも皮肉な構図が出来上がるのです。実際にダルリアッドの王マイダーとして王位を簒奪した女王リアサンへの復讐に燃え、戦いに明け暮れる1年間でフィドルスは自分が身代わりであることを忘れる程、真の王へと成長していきます。

児童文学の世界では高名な著者の作品の中でも評価が高いのがこの「王のしるし」です。王として偽りの人生を生きる元奴隷を主人公に選び、最後に立派な王になるフィドルスの成長を通じて、サトクリフは人は生き方次第で何者にでもなれるという無限の可能性と、過酷な環境にも負けない強さを持つことに意味を描きたかったのかと思います。生きる目的に向かって努力と才能と強い意志と行動力があれば、フィドルスのように奴隷から異民族の王になることが出来るし、自分が目指すところへと行くことが出来るのだという強いメッセージ性に、常日頃社会の荒波に揉まれ、理不尽な世の中で呼吸するだけで精一杯状態の私の心は奮い立たされます!!単純過ぎ?

サトクリフは児童書に似合わず、かなり現実を厳しく描く作家です。この物語のラストも全てが一瞬で終わります。それもかなり残酷な終わり方をします。そんな終わらせ方をしながらも、しっかりとポジティブなイメージを読者に残すことが出来るのはサトクリフの物語作家としての腕がなせる高度な技だと思います。毎日の仕事に擦り切れてしまった世のお父さんとお母さん達に「子供へのプレゼント」という言い訳を付けて買っちゃっても損はない一冊ですので、これからの季節クリスマスのプレゼントにいかがでしょうか。自分の生きる目的を探す切っ掛けを与えてくれる素敵な作品です。

王のしるし(上) (岩波少年文庫)

王のしるし(上) (岩波少年文庫)

  • 作者: ローズマリ・サトクリフ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/01/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
王のしるし(下) (岩波少年文庫)

王のしるし(下) (岩波少年文庫)

  • 作者: ローズマリ・サトクリフ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/01/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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