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幻想の街々の世界へ 「見えない都市」イタロ・カルヴィーノ著 [本]

想像力総動員で読む幻の街の物語「見えない都市」


見えない都市 (河出文庫)前回ご紹介した「小説十八史略」の最後はフビライ・ハーンによる元の建国で物語りが終わりました。今日はそのフビライ汗(ハーン)と彼の寵臣マルコ・ポーロの対話による幻想小説の傑作、イタリアのイタロ・カルヴィーノ著「見えない都市」をご紹介します。この小説は統治者でありながら広い領土を自分の足で見て回ることができないフビライ汗の代わりにマルコ・ポーロが領地をめぐり、その様子を報告するという設定になっています。あらすじというものも特にないのですが、簡単にまとめます。

中国を統治した元の国主フビライ・汗(ハーン)は、王朝の絶頂期を迎えているものの自分の目ですべての領土を見ることができない。そこで彼の臣下であり、異国から来たマルコ・ポーロが国内を旅して見て来た街々の様子を報告させる。マルコ・ポーロから話される55の都市はすべてどれも存在しているはずだけれどもフビライ汗にはその存在すら確かめることができない街。そんな見えない都市の話を聞き、フビライ汗は街の様子ではなく、そこに住む人々の生活やその人生を垣間見る。

1つの街の紹介が長くても4ページとかなりコンパクトにまとめられています。55の街は高度な科学技術を持つ近未来都市から巨大都市、空の上や湖の中にある不思議な町に死者に会える街など多種多様な町が登場します。街にも成長途中の街もあれば絶頂期に斜陽の都市、既に滅びの歩みを止めることができない町など「都市の命」もありますし、街の様子を通してそこに住む人々の生活や人生も間接的に一緒に描かれています。幻想小説にふさわしく、読み手の想像力を総動員してイメージを膨らませながら読み進める必要があるのでボルヘス系が好きな人は結構はまると思います。

マルコ・ポーロの語り口はフビライ汗に向けているので、優美で洗練された言葉と言い回しが非常に美しいです。この辺は原作の文章の美しさを翻訳で再現するのに大変な苦労があっただろうなと感じさせます。穏やかな語りで時には残酷に、時には華やかに語られる街の姿は決して現実離れしたものにはならない薄暗いリアリズムもスパイスとしてきいていて、読んでいると時の流れが感じられなくなる不思議な感覚になります。実在しない街のお話なのでファンタジーではありますが、読み手は大人のための童話といった表現がぴったりきます。

フビライ汗とマルコ・ポーロの会話は回を重ねるたびに少しずつずれが生じていき、最後はお互いに自分の聞きたいことしか聞こえないし、見たいものしか見えないけれども会話は一応成立しているという微妙な一線の上をフラフラしているのも非常に興味深いです。フビライ汗にとって帝国は隆盛を極めたものの既に衰退の時期にさしかかったという認識が冒頭に描かれ、最後にマルコ・ポーロが話す街は「地獄」。それもそれは決してあの世にあるものではなく、この世に存在する「地獄」です。

かなりシュールでブラックですが、旅(=人生)を重ねてきたマルコ・ポーロの口を借りて語る作者カルヴィーノが考える世界観は凄く面白かったです。この小説は読み手を選ぶタイプなので、何も感じない人もいれば凄く面白く感じる人もいるという読み手との相性が求められる種類です。読んで元気が出る本ではありませんが、現実に嫌気が差し自己の世界に潜りたい時、この世の時間の流れから少し離れたい時に最高の一冊です。「千夜一夜物語」のような不思議な世界が貴方を待っています。「見えない都市」お勧めです。

見えない都市 (河出文庫)

見えない都市 (河出文庫)

  • 作者: イタロ カルヴィーノ
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2003/07
  • メディア: 文庫

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