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これは児童書だけど社会派文学なんです 「続あしながおじさん」 [本]

サリー・マクブライド、孤児院院長として大活躍!!


あしながおじさん (続) (新潮文庫)前回紹介した「あしながおじさん」の続編、その名も「続あしながおじさん」を今日はご紹介します。前作の主人公ジルージャ(愛称ジュディ)が結婚し、旦那様からクリスマスプレゼントに孤児院を理想的な物にするための莫大な資金をもいます。そこで親友の有閑令嬢で若く美しいサリー・マクブライトを院長職を頼みます。主人公は陽気で快活な孤児院育ちのジュディから、裕福な家庭で育ったお嬢様であるサリーに変わり、サリーと孤児100人強と過ごすジョン・グリア孤児院が物語の舞台になります。ではあらすじを簡単にご紹介します。

ジョン・グリア孤児院で育ったジルージャは夫からクリスマスプレゼントに自分が育った孤児院を理想的な物に作り替える為の資産として莫大な金額を受け取り、そのお金の使い方と孤児院の運営を親友であるサリー・マクブライトに依頼する。サリーは突然の話に全くやる気がなかったものの、孤児たちの生活と孤児院という場所が如何に閉鎖的で問題を多く抱えているかを知るにつれ、徐々に孤児院の改善に向けた改革をご近所の住人をも巻き込みながら既成概念に捕らわれない斬新な方法で断行していく。孤児院に来なければならなかった子供たちの辛い境遇、孤児院を出た後の身の振り方まで考えた教育とは何か、ありとあらゆる面を改革していくサリーのジョン・グリア孤児院の院長としての日々を描いた奮闘記。

今作の主人公は前述の通りサリーで、彼女は前任者の封建的なリペット女史から院長職を引き継ぎ、次の院長が決まるまでの一時的な院長を引き受けるつもりでジョン・グリア孤児院に来ます。親友ジュディが育った場所ということで来たものの実際に目にする孤児院の現状は予想を遥かに超える環境の悪さと多くの問題を抱えていることが分かり、次の院長に気持ち良く業務を引き継げるようにと少しずつジョン・グリア孤児院の改革に取り掛かります。

始めのうちは孤児達を可哀想な境遇の子供達という目で見ていたサリーも徐々に100人強いる孤児達に愛情を感じはじめ、孤児院の医者であるロビン・マックレイ医師をはじめとするご近所の住人の方々を孤児院の運営に巻き込みながら、人員整理に子供たちの衣食住の改革と、これまで封建的なリペット女史が貫いてきた古臭い慣習をぶち破っていく姿は実に痛快です。もちろん全てが上手くいくわけでもなく、時には残念な結果になってしまうこともありますが、彼女がジュディに書く手紙が実にユーモアに満ちていて、辛く苦しい現実を正確に描写しながらも決して暗くならないように描かれています。

この本の原題は「Dear Enemy」で、直訳すると「親愛なる敵様」というものです。このタイトルが表す敵はマックレイ医師(通称ドクトル)のことで、サリーは全く気が合わずいつも不機嫌で精神病に関して異常なまでに執着するドクトルと衝突ばかりしていたため、ドクトル宛ての手紙は「親愛なる敵様」と宛名が書かれています(笑)。どうしてドクトルが精神の病気に固執するかは物語の後半にしっかりと明かされるのでここでは秘密にしておきますね。

本の厚さが「あしながおじさん」の2倍の分量があるので、孤児院では毎日何かしら事件が起こります。例えばアルコール中毒の親の影響で健康に問題を抱えている子供もいれば、10才そこそこで泥酔し現実から逃れる習慣から逃れられない可哀想な子供、そしてある日突然親を失い兄弟3人で孤児院に預けられたものの、里子に出す時に兄弟を引き離すことが良いのか悪いのか、孤児院という閉鎖された場所で起こる出来事を赤裸々に描き、社会派の小説という一面と孤児をサポートする人々のヒューマニティーの側面も描いた作品と言えましょう。特にサリーにとって孤児を里子に出す時の受け入れ側の条件と審査はかなり厳しく、子供の将来を考え、少しでも相応しくない家庭とみると決して妥協はせずに子供を里子にだすことは断固拒否します。

孤児院の院長という24時間忙しい生活の中にも、彼女の恋人である将来有望な政治家ゴルドン・ハロックと結婚して政治家の妻として過ごす素敵な将来と、孤児院の院長としての仕事を両立することが出来ず、どちらをとるか迷ったり、ピンチな時に必ず助けてくれる敵様ことドクトルの不可思議な友情関係で人間関係もゴチャゴチャしてきたりと、サリーは大忙しです。院長をさっさと辞めてくれるように頼むゴルドンとの手紙のやり取りやデートの様子などはサリーの人格が良く出ていて、ジュディ以上にサリーが好きになること間違いなしです。また、物語の後半ではジュディにも子供が生まれたことが書かれており、「あしながおじさん」で出会った二人の結婚生活は至極幸せのようです。もちろんサリーは、ジュディは素敵な旦那様と結婚で来て羨ましいわ、と恨み節モード全開です(笑)

若く美しい裕福な家庭で育ったサリーが、100人以上の孤児たちの母親代わりとして孤児院をガンガン改革していく物語は非常に読んでいて面白いです。そして院長として決して己の意見を曲げない芯の強さと、ハロックとの愛に迷う一人のうら若き女性が持つ悩みなど、人間が持つ弱さや強さ、優しさと慈愛など人間の全ての要素がこの小説に描かれていると言っても過言ではないでしょう。サリーとジュディという全く正反対の2人を主人公にしたこの「あしながおじさん」シリーズは生きることの素晴らしさ、諦めないことの重要性、常に前を向き、強い信念を持って生きる全ての人を応援する素晴らしい作品です。そして孤児という社会的弱者に対しどのようにサポートすることが出来るのかという問題にも真正面から取り組んでいます

この素晴らしい小説を書いた著者ジーン・ウェブスターは40才という若さで次女の出産の2日後に産褥熱で惜しくもなくなりました。生前社会事業に興味を持ち、少年感化院や刑務所改善に尽力した彼女の思いはこれらの本を通して世界中に広がり、日本では交通事故で親を失った子供達の学業をサポートする為の基金として設立された「あしなが育英会」となりました。ウェヴスターは彼女の母国アメリカのみならず、遠く離れた日本で彼女の意志が広く世界に広がっていることを天国で優しく見守ってくれていることでしょう。

あしながおじさん (続) (新潮文庫)

あしながおじさん (続) (新潮文庫)

  • 作者: ジーン ウェブスター
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1961/08/08
  • メディア: 文庫

 
あしながおじさん (新潮文庫)

あしながおじさん (新潮文庫)

  • 作者: ジーン ウェブスター
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1954/12/28
  • メディア: 文庫

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