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全体主義の恐ろしさ。ジョージ・オーウェル「1984」 [本]

名作の名に相応しいSF小説「1984」


一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)2012年のノーベル賞発表も終わり、iPS細胞の研究で京都大学の山中教授が受賞されるという喜ばしいニュースが日本中を沸かせましたが、文学賞で期待されていた村上春樹さんは残念ながら今年も受賞とはなりませんでした。彼の最新作「1Q84」は文庫でも発売され、Amazonのランキングでも常に上位にあり、村上春樹ワールドの強さを改めて感じさせます。

そんな村上春樹さんが書いた「1Q84」の元ネタともいえる本で、世界最高邦の文学作品として名高い英国作家ジョージ・オーウェルが1949年に発表した「1984」です。タイトルから想像できるように近未来を描いたSF物で、このジャンルがあまり好きではない私は”いつか読もう”と思いつつ、全く手を付けていなかった一冊でもありました。内容は知っていたのですが、今回初めて読んでみてこんなに凄い作品だったのかと、これまで食わず嫌いならぬ”読まず嫌い”をしていた自分が情けなくなりました・・・(涙)。では早速この凄いインパクトを読み手に与える作品のあらすじを紹介しようと思います。

時は未来、世界が3つの国に分かれ戦争を繰り返す世界となり、旧イギリス圏を領土とするオセアニアのロンドンで治世党員として暮らす主人公ウィンストン・スミスは、真理省で過去の記録の修正(党にとって都合よく過去を改ざんする業務)という仕事にいそしみながら、この世界のあり方に疑問を持っていた。しかしながら一党支配の世で24時間完全な監視下に置かれているなか、彼は自分と同じくこの世界に疑問を持っていると思われる党の重役オブライエンや、同省に勤める美しい女性ジュリアとの出会いを通じて、ウィンストンはこの一党独裁の支配下からの解放に向けて、党に反旗を翻す指導者ゴールドスタインの為に働くことを誓うが、事態は思わぬ方向へと進んでいきます。

このあらすじを読むだけでも、なんとなーくどこかの国を彷彿とさせる内容ですね。人口の20%しかいない党員が全てを支配し、残りの80%は人間としてカウントされず、消耗品の労働力として認識されているという実に恐ろしい社会であり、「テレスクリーン」と呼ばれるディスプレイを使って常に行動や思想まで監視される、全体主義を完璧に再現した世界です。勿論プライベートという言葉すら存在しませんし、党員は全員党による洗脳を受けているので反逆者が登場する土壌もなく、ある意味完璧な世界。そんな中、党による洗脳を免れた部分から過去の記憶を呼び起こし、党のあり方に疑問を持つウィンストンが革命への土台となるべく自らの命をも犠牲にすることを厭わない覚悟で行動していく物語は、緊張感を始終感じさせ、予測不可能な出来事の連続で油断して読んでいると「えぇ~!!」という展開についていけなくなるので要注意!!

SFには付き物の造語がたくさん出てくるので慣れるまでに私は少し時間がかかりましたが、新訳ということもありそれらの言葉も理解しやすくなっていて、日頃SFを読まない人でも読み進めることが出来ると思います。というか途中挫折は出来ないです。また、この本の造語が現実社会でも使われるようになった言葉も多く、オセアニアの支配する党の名前「ビッグ・ブラザー」は英語で「独裁者」を、「ダブルシンク」「ダブルスピーク」は「二重思想」や「二重話法」という形で現在の日常生活で使われています。詳細は是非物語の中で調べてみてください(笑)。

反体制を指揮するゴールドスタインが書いた党の内情を暴露した本(当然禁書)、通称”あの本”をオブライエンから受け取るシーンなど、世のあり方について読者に訴えかけてくるシーンや、ジュリアとの恋愛で人間らしさとは何か、愛とは何かを考えさせられたり、死よりも恐ろしいこととは何か等々、この本はとにかくありとあらゆることを読者に考えることを求めてきます。愛、裏切り、政治、戦争、生きるという意味、非常に内容が濃い本ですが、強いアルコールの様にクラクラする酩酊感を与えることなく、最後まで切れ味抜群のナイフのような物語の展開に読み手も気が付いたら中毒になっていたというタイプの本です。

この物語がどういう終わり方をするかはネタバレになるので書きませんが、私は「こんな終わり方をするんだ!!」と非常に驚きました。この終わり方を選んだオーウェルの作家として技量を感じさせますし、この物語を通じて読者に問いかけてきた自由の意味や世界、全ての結末をこういう締め方をするんだ、という驚嘆すら感じさせます。この本の解説を書いたトマス・ピンチョン(あのピンチョンが解説を書くだなんて奇跡ですよ!!)による説明も、オーウェルが自身で書く最後の小説となる覚悟があっただろう「1984」で何を目指していたのか、何を言わんとしていたのかをかなり高次元で説明しています。一見、物語中に軽く触れられた事がどんな伏線になっていたのか、そしてどうやって回収されたかなどは、解説を読まないと分からないくらい緻密な構成になっているので、この解説はかなり重要です(もちろん読み終わってから読みましょうね)。

現代の米国純文学作家の最高峰にいるピンチョンが解説する程の作品である「1984」は、英語で書かれた作品の中で最も優れた文学に選ばれたり、世界に影響を与えた作品としてランキング上位に選ばれる等、世界中でその作品が認められています。要するにメチャクチャ凄い本ということですね。村上春樹さんの「1Q84」の世界観も、このオーウェルの「1984」の世界観にインスパイアされたのは間違いありませんし、「1Q84」に「1984」のどの要素を盛り込んだのかを探してみるのも面白いと思います。とにかく傑作や名作と言われる理由が良く分かる本なので、まだ読んだことがない人は是非読んでみることをお勧めします。10代の時に読んだ感想と、20代、30代になってから読み返しての感想が大きく変わって来る作品の一つだと思います。世界中で読まれている作品であり、発売後60年以上経っても人々に影響を与え続けているジョージ・オーウェルの名著「1984」一読の価値ありです。

Big Brother is watching you

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: ジョージ・オーウェル
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/07/18
  • メディア: 文庫


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symplexus

■1980年代のイギリス映画に「1984」というのが有りました.
ジョージ・オーウェルの同名の小説を原作とした硬派な作品と記憶
していますが,あまり周囲では話題になりませんでした.
僕はビデオで観たのですが,DVD化されていないのが残念!

by symplexus (2016-02-21 17:54) 

as

>symplexusさん、ようこそ!!その映画はきっとこの本の映画版ですね。本は内容が過激な感じなのでそれを映像にするなんてどんな作品に仕上がっているのでしょうか。凄く興味があります。一貫して物語に流れている不穏な空気間を是非映像で見たみたいです。DVniDなっていないのが凄く残念ですが、AmazonのUKあたりで探してみようと思います。
by as (2016-02-22 22:57) 

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