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梶井基次郎「櫻の樹の下には」 [本]

美しさの背後にあるものは・・・

満開の桜の写真を掲載した前回のエントリー。完成された美でもあり、美の真髄とも表現できる日本の桜。一年に一度、たった10日しか咲かないこの花のために、古来より日本人は一喜一憂してきたものです。

そんな桜が持つ美しさについて、多くの文学作品で描かれていますが、やはり近代文学において、桜を描いた小説の代表作は梶井基次郎の「櫻の樹の下には」ではないでしょうか。

「櫻の樹の下には屍体が埋まっている!
 これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも
 見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。・・・」

先日購入した梶井基次郎の短編集「檸檬」の中に、しっかりと収められていて、久しぶりに読みましたが、やはり梶井基次郎の独特の感性は、言葉に表現できないものです。多分読む人によっては、チンプンカンプンな人もいるであろう梶井ワールド(笑)。私はあの”妙に楽しく病んだ世界観”が大好きです。ちょっと危ない発言ですね(苦笑)ですが、確実にこの「檸檬」は気に入りの一冊です。
そんな彼の作品の代表作でもある「櫻の樹の下には」は、桜が満開の時に醸し出す美が撒き散らす神秘な雰囲気を、感性豊かな主人公にはその余りにも美しすぎるために、そのまま受け入れることが出来ず、不安を呼び起こし、鬱へと陥るというもの。そして、桜の美しさを受け入れる為には、

「俺には惨劇が必要なんだ。」

と、心の中に自らが必要とする「惨劇=死体」を作り出し、そして初めて桜の美しさを眺めながら酒を飲めるようになる、というもの。

美しいもの対する気後れを、敢えてそれと対向する残酷なイメージとあわせて一対のものとし、自らの心の「平衡」を保ち、「心が和む」。桜の美という完璧な美には、完全なる惨劇=死体が必要という梶井基次郎の感性。天才の一言に尽きます。そしてそんな天才は、例に漏れず31歳で夭逝。実に残念です。

魅力ある美しいものは、決して美しさだけでは成り立たない。その後ろにある陰と一対になって初めてその美しさが完成されるというもの・・・。美人も然り。単に綺麗な美人よりも少し陰のある美人の方がなんとなく惹きつけられる・・・。そんな普遍的な「美」に対する人間の心を桜を題材に描いた傑作「桜の樹の下には」、満開の桜の木の下に座って読んでみると、また味わい深い作品です。

檸檬 (新潮文庫)

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コメント 4

みみちゃん

こんにちは。
おこがましくも、この感性には共感できるものがあります。
世の中は、すべてプラマイゼロのような気がします。
by みみちゃん (2009-04-14 12:52) 

as

>みみちゃんさん、ようこそ!!そうなんですよね、世の中って「陰と陽」だったり、「プラスとマイナス」だったり、究極のところプラマイゼロな感じがしますね。だからこそ平衡が保たれていて、それが維持されているような気がします。
by as (2009-04-14 20:14) 

テレマーカー

闇を上手く使うことによって、光の存在を際立たせる。
確かキリスト系の芸術的手法にもありますね。
写真でもぎりぎりまで露出を絞り込んで、ハイライトを印象付ける撮り方もあります。

山で見る空間芸術は凄く、畏怖(畏敬)の念を覚える時もあります。自然と涙も出る時も。
しかし、惨劇ではないけれど、その裏にある「一瞬前」にある恐ろしい程の厳しさ、「一瞬後」にある自然の猛威を感じる時もあります。
人なんて簡単に飲み込んでしまう厳しい気象に磨かれた岩稜の稜線の残照など、吸い込まれそうで怖いですよ・・・。
by テレマーカー (2009-04-14 23:38) 

as

>テレマーカーさん、ようこそ!!大自然の中で創られた美というのは、正に人知を超え、人の手では絶対に作り出すことができないもの。だからこそ、美しくもあり、また同時に畏怖の念を抱かせるのでしょう。テレマーカーさんのように、自然界での多くの体験をなさっている方だからこそわかる、素晴らしい視点ですね。
by as (2009-04-15 20:33) 

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