SSブログ

過酷な環境で耐え忍ぶ2人の女性の物語「千の輝く太陽」 [本]

 マリアムとライラ、2人の女性の数奇な運命と絆の物語


千の輝く太陽 (ハヤカワepiブック・プラネット)久々にここまで心が痛む小説を読みました。今日は「千の輝く太陽」をご紹介したいと思います。テーマのとても重い小説ですが、その中に最後には確実に次へと導く光が見える希望にあふれた本です。号泣確実小説「君のためなら千回でも(原題:カイトランナー)」の著者カーレド・ホッセイニの長編第二作は、2人の女性の苦難に満ちた人生を描いた重く暗いテーマですが、読み手をグイグイと読ませていく展開で全米で年間ベストセラー1位を獲得した作品という評判にも納得です。イスラム教の世界、そして内戦に苦しむアフガニスタンという私達にはあまり馴染みのない世界を扱った小説ですが、読後には逆境をいかに生きるか幸せとは何かを真剣に考えるきっかけをくれる素晴らしい一冊です。まずは、あらすじをどうぞ!

私生児として生まれたマリアムは、週に一度の父親の訪問を何よりも楽しみにしている女の子。決して自分と母を家族として認めてはくれないが自分は愛されいていると信じていた。ある日勇気を出して父が住む屋敷に行くが、そこで見たのはマリアムの存在を恥じ、決して認めない父の別人のような姿だった。父に見捨てられ、軽率な行動から母も失ってしまったマリアムを待っていたのは深い絶望と忍耐、そしてカブールを襲う内乱という過酷な運命だった。

マリアムの母ナナがマリアムに教えた「磁石の針はいつも北を指し、責める男の指先はいつも女を指す」「女に必要なのは耐え忍ぶこと」の2つの教訓がまさにこの本のテーマであり、伝統という名に縛られ女には生きにくい国アフガニスタンを表現しています。タイトルの「千の輝く太陽」は物語の中に出てくるサイベ・タブリジがカブールの街の美しさを讃えた詩の一説からとられていて、そのカブールの街も物語の中で戦争で全てが破壊しつくされ瓦礫と化し、戦争がいかに不条理なものかを強く訴えてきます。

主人公の一人マリアムは私生児として生まれ15歳で強制的に30歳近く年上のラシードと結婚させられカブールへと連れて行かれます。気難しく暴力を振るうラシードとの生活は”耐え忍ぶ”日々。ロケット弾で家族を失い瀕死の状態だった近所の娘ライラを助けるも、ラシードがライラを第二夫人として迎えすぐに子供を身ごもったことで更に耐える日々を過ごすこととなります。

もう一人の主人公ライラは内戦が始まった日に生まれ、元教師の父の下で教育をしっかりと受けて育つますが戦争で家族全員を失います。幼馴染のタリークとの深い絆も戦争で失いますが、タリークと美しい思い出はその後ライラが生きる理由となります。ロケット弾に当たり生死の境をさまよった時に看病してくれたのがマリアムであり、身寄りのないライラはある秘密を抱え、命の恩人でもあるマリアムに恨まれることを覚悟しラシードの第二夫人となる運命を選びます。

マリアムとライラは同じ男を夫に持つ夫人同士でありその関係は最悪なものでしたが、ライラが娘アジザを産んだことがきっかけとなり関係性が少しずつ変わっていき、ラシードという夫でありお互いの人生の最大にして共通の敵に立ち向かう戦友という一面が次第に強くなっていくという非常に複雑で私達日本人の感覚では理解しにくい関係です。イスラムの世界では妻は4人まで持つことが許されているので、妻同士は姉妹の様な関係になることは至って普通のことなんですよね。

マリアムの人生は第三者から見れば不幸そのもの。男の勝手に振り回され耐え忍んで生きた人生です。しかしマリアムの自身は自分のことは不幸とは思わず、人生の最も重要な局面でたった一度だけ自分の人生を決めることができたことを誇りとし、自分は幸せだったと胸を張ってライラの為に全ての不幸を引き受ける覚悟をしました。マリアムの決断によってラシードの呪縛から解放されたライラはその後、自分に課せられた宿命とマリアムの命を引き継ぎ逃げることなくカブールで生きることを決めます。一方のライラの人生も決して幸せとは言えませんが、全てを乗り越え内戦が終わりを迎えたカブールで前を向き生きるライラは、マリアムの様な耐え忍ぶことしかできなかった女性達の次代を担う女性として表現されています。ライラが生きることが出来るのはマリアムの様な過去の厳しい環境で耐え忍んできた女性達が築き上げた、アフガニスタンの女性の連綿と続く”強さ”が導いた結果でもあります

今の自分にとって幸せが分からないという女性はきっとこの小説を読むと自分の幸せの概念を大きく変えてくれるでしょう。マリアムやライラの様な過酷な状況に生きる女性達が見つける細やかな幸せは現代女性の幸せと共通であり、豊かな生活に麻痺した感覚では見逃しがちな「控えめな幸せ」に気付かせてくれます。今の女性達は生きる選択が自分で出来る、いわば幸せになるのも不幸せになるのも自分で決めることが出来るのです。選択の自由があるという素晴らしいことに気付かせてくれます。

この小説の作者ホッセイニは男性ですが、ここまで女性の心理描写を丁寧に描けるなんて本当にすごいと思います(翻訳も本当に素晴らしいです)。前作の「君のためなら千回でも」では少年の友情物語に涙が止まりませんでしたが、今回の作品では作風が一気に変わり男性よりも女性の心に強く響く作品です。特に仕事や家事で精神的に弱っている現代女性が幸せとは何かを再発見へと導いてくれる作品だと思いますので、是非一度手に取ってみてください。戦争や暴力等厳しい表現が出てきますが、すべてを越えた先には心震える感動が待っています。おすすめです。

千の輝く太陽 (ハヤカワepi文庫)

千の輝く太陽 (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: カーレド ホッセイニ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/08/08
  • メディア: 文庫

nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0