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「死」って何だろう。少年達の好奇心「夏の庭」 [本]

命のバトン、孤独な老人と少年達のひと夏の交流


夏の庭―The Friends (新潮文庫)新潮文庫の夏の100選に必ず選ばれる定番の作品の一つ、湯本香樹実さんの「夏の庭」をご紹介したいと思います。定番中の定番の児童書なので読んだことがある人も多いのではないでしょうか。死という少し重めのテーマを扱った作品ですが、1人の老人と3人の少年の交流を通して、死とは生きるとはどんなものなのかを子供向けに描いた作品です。ではあらすじを簡単にどうぞ。

「人が死ぬところを見てみたい」という好奇心から近所のおじいさんの観察を始めた小学生3人組。夏休みを利用して毎日おじいさんの家を観察しているうちにおじいさんと少しづつ交流が始まる。おじいさんとの交流を通じて少しずつ成長する少年達と彼らの登場で元気を活き活きとした生活に戻りつつあるおじいさん。そんな彼ら4人の不思議なひと夏の出来事の物語。

少年達は「死人を見てみたい」という性格の悪い好奇心からおじいさんを観察するようになりますが、観察される立場のおじいさんの生活は人生に突然割り込んできた少年達の影響で、こたつに入ってテレビを見ているだけの無為のものから活気を取り戻していきます。勿論観察していたはずの少年達は本人達は全く気が付いてませんが、おじいさんにしっかり観察されていますし、一緒に過ごす時間が長くなるにつれて3対1という相対的だった関係が4人という一元的な関係に変わり、その絆が徐々に深くなっていく様子は実に面白く優しいものです。

少年達の興味は「おじいさんの死」から「おじいさんの人生」に移行し、おじいさんから結婚生活や戦争体験などを聞くようになっていきます。3人の少年達はおじいさんの心に触れて、おじいさんの別れてしまった奥さんを探すために奔走したりします。小学生のかなり無鉄砲な行動を温かく見守り濃密な時間を過ごすうちにおじいさんの心の中で彼らの存在は自分の死後のことを頼める存在にまで高まっていくんですね。自分が生きている間に出来なかった事を頼むことが出来る頼れる存在へと・・・。

ただし、よく考えてみると今の時世、他人の家を連日少年達が観察していたら警察に通報されても当然ですし、ましてや大好きなサッカー教室をさぼっておじいさんの家の修理の手伝いをする小学生というのは少し無理がありますね(苦笑) 

そして大切な人の死はある日突然やってくるのです。誰にでも。

3人にとって「おじいさんの死=夏の終わり」となってしまいましたが、彼らにとっておじいさんの死は乗り越えるものではなく、おじいさんの生きた時間と命を受け継ぎ、昇華させることによって彼らが一回り成長し卒業後それぞれが別々の道を振り返ることなく進んでいける強さを得る経験となりました。命のバトンを受け継いだ瞬間でもあります。昔何かの本の中で「子供と老人は決して離してはいけない。なぜならばそれぞれが未来と過去であり、それを離すことは時間の流れを断つことだから」という文章を読んだことを思い出しました。まさにこの本はこの言葉を象徴するかのような物語です。

本作は児童書のカテゴリーに入りますが、読み手が”おじいさんより”か”少年達より”かで読後の感想がだいぶ変わってくる作品です。私は既に”おじいさんより”の立場で本書を読んでいました。そして人生で一番大切なことって、実は学校では決して学ぶことが出来ないんだなと改めて感じた1冊でした。貴方が受け取った「命のバトン」を渡せる人にはもう出会えましたか?私もそんな人に出会いたいものです。

夏の庭―The Friends (新潮文庫)

夏の庭―The Friends (新潮文庫)

  • 作者: 湯本 香樹実
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1994/03/01
  • メディア: 文庫

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