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志賀直哉の本領はここに。珠玉の短編集 [本]

明確にして無駄の無い文章はお手本です


小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)久しぶりの読書ネタです。最近ずっと仕事関係の本を読んでいたために自分の楽しみの読書が後回し状態でしたが、ようやく少しずつですが本を読む時間を取り戻しつつあります。そんな復帰後初の本は志賀直哉の短編集「小僧の神様・城の崎にて」です。志賀直哉といえば以前「暗夜行路」を取り上げましたが、今回この短編集を読んで彼の本領は短編集にあるということが良~く分かりました。ちなみに「暗夜行路」は志賀直哉の唯一の長編小説になります。

志賀直哉といえば「小説の神様」と言われ、無駄の無い文章と的確かつ冷静な描写、そして分かりやすい言葉で名文を書く才能がずば抜けた作家です。現在でも物書きを目指す人は一度は彼の作品をテキストに文章を書く練習をしたことがあるのではないでしょうか。私が好きな三島由紀夫や川端康成の文章は典雅にして美麗ではあるのですが、志賀直哉のような芯の強さがある文章ではありません。

この短編集に収録されているのは、志賀直哉の中年期の作品で、彼の作家人生で最も成長した時期のものになります。全18編の小説が収められており、その中に有名な死生観を描いた作品「城の崎にて」や、小説の神様と呼ばれるきっかけとなった「小僧の神様」等、志賀直哉の代表作が収録されています。また大胆にも自らの不倫の経験から題材をとった4つの連作「瑣事」「山科の記憶」「痴情」「晩秋」といった一風変わった作品もあります。この4編は奥さんに「愛人とは分かれるよ~」と言いつつ、本心では「自分にとって奥さんが一番ということは変わらないし、このままで良いじゃん」という、全く反省もしない上に不倫相手と別れる気が一切無いという男性心理を赤裸々に描いています。この言い訳じみた主人公の思考回路は男性はこんなふうに考えているんだろうなぁと非常に勉強になります(笑)。

志賀直哉といえば天才特有の偏屈な部分も多分にあり、締切は守れない、嫌いなものは嫌い、ヒステリックといった一面もあり、短編で素晴らしい作品を書きながらも新聞連載の話しを師である夏目漱石にもらいながらも”自分には無理”と泣く泣く断ったというエピソードの持ち主でもあります。直哉にとって時間に束縛されて作品を書くよりも、自分のペースで作品を書くことが何よりも重要という、作家としても非常にワガママな人だったようです(苦笑)。

しかしながら、一つの作品に打ち込む姿勢は結果的に素晴らしい作品となり世に広く受け入れられているだけに結果オーライと言ったところでしょうか。特に傑作として名高い「城之崎にて」は、直哉自身が山手線に轢かれ、その怪我を癒すために出かけた温泉地で死と生を静かに見つめた作品です(この一編だけでもこの本を買う価値があると私は思います)。他にも人間のみならず虫や昆虫なども含めた「命」に対する思いが詰まった作品がかなりあります。志賀直哉をはじめとする白樺派の作品はどれも自我を肯定するという非常にポジティブな精神が根底にあるので、読んでいて暗い気分になったりすることもなく、軽い気分で読むことができるのが良いです。この精神は個人主義の夏目漱石の影響と流れを引いていますね。

題名になっている2つの作品意外にも、夫婦が転生して同じく仲睦まじく生きることを約束するおとぎ話の様なお話や、気の良い夫婦の日常会話だけの作品など、かなりバラエティーに富んだ作品が収められていて、志賀直哉の作品を初めて読む時にも飽きることなく最後まで読むことが出来ると思います。気楽に読める作品から死生観という重厚なテーマを扱った作品まで収められている「小僧の神様・城の崎にて」、大人の人にこそ読んで欲しい一冊としてオススメしたいと思います。

 

小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)

小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)

  • 作者: 志賀 直哉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/04
  • メディア: 文庫
 

 


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コメント 2

w。

この文章もとてもきれいと思います。ブログ楽しませていただきます。ご活躍を祈っております。
by w。 (2015-02-04 10:11) 

as

>w.さん、ようこそ!!お褒めの言葉ありがとうございます。少しでも良い文が書けるように1ブロガーとして頑張りたいと思います。
by as (2015-02-05 23:31) 

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