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美しき悪魔を追い詰めろ!「レイディ・オードリーの秘密」 [本]

天使か悪魔か、オードリー夫人の秘密を暴け!


レイディ・オードリーの秘密イギリスの黄金時代ヴィクトリア時代に書かれたメアリ・エリザベス・ブラッドンの「レイディ・オードリーの秘密」をご紹介します。この本は以前blogで紹介したウィルキー・コリンズの「白衣の女」「月長石」と同じ時代に書かれ、2作品に負けない珠玉の推理小説ですが、なぜかこれまで日本では全く紹介されることがなかったのを、昨年近代文藝社さんが翻訳して出版してくれました!近代文藝社さん、ありがとうございます!まずはあらすじをどうぞ!

ロンドンで怠惰な生活を送る弁護士ロバート・オードリーは町で偶然3年半ぶりにオーストラリアから帰国した友ジョージ・トールボイズと再会する。とある事情から妻子を置いてオーストラリアに渡ったジョージはオーストラリアで金脈を当て財をなし家族との再会を楽しみにしていた。ところが、そんな彼を待っていたのは愛する妻ヘレンの訃報。生きる気力を失ったジョージを心配するロバートはジョージを励まし、田舎にある叔父の領地オードリーコートに誘う。美しい自然の中、叔父のところで悲しみが少しでも癒えればと思った矢先にジョージは突然失踪する。親友の失踪の謎を追いかけるうちに、ジョージの失踪にはレディ・オードリーが何らかの形で絡んでいることが見え隠れしてくる。

あらすじからも分かるように物語の前半で失踪したジョージが殺され(ただし死体は見つからず)、その犯人が誰であるかが分かります。ロバート・オードリーははレディ・オードリーが失踪事件に関与しているということで尊敬する叔父一家を醜聞に曝すことに苦しみながらも良心に従い親友の死の真相を追いかけ、この殺人が”いつ、どこで、どのように、何故”行われたかを数々の障害にを乗り越えながら徐々に明らかにしていきます。物語が進むにつれてレディ・オードリーことルーシー・オードリーの麗しい美女に中にある天使のような淑女と悪魔のような妖婦の二面性、そして彼女の秘められた過去が明らかになっていき、ロバートはジョージの妹クレアラ・トールボイズとの約束を果たすべく、レディ・オードリーとの全面戦争へと進んでいきます。自らの美貌と夫の深い愛情を味方にした狡猾で賢い天使の仮面を被ったレディ・オードリーと、弁護士という職業で培った状況証拠を集めレディ・オードリーの包囲網を少しずつ狭めていくロバートの戦いは壮絶な神経戦で読んでいてハラハラします。

主人公ロバート・オードリーやレディ・オードリー以外にも脇を飾る登場人物はそれぞれ一癖も二癖もある曲者揃いです。奥方様の秘密を知る侍女(この時代の侍女は常に奥方様の秘密を知っている)や何かを必死に隠しているヘレンの父親など全員が胡散臭く、コリンズの作品よりも精神面、特に心の動きや感情などを繊細に描いているので最近の推理小説を読んでいる人にも時代の隔たりを感じることなくすんなりと小説の世界に入ることができると思います。また、ロバートが住むロンドンの埃っぽい街中や冬場の閑散とした海辺の町、田舎の自然溢れる美しさを堪能できるオードリーコートなど、自然描写も物語が展開する1年を通じて実に鮮やかに描かれています。

究極の悪女のようなレディ・オードリーですが、ロバートがその秘密に迫るにつれて彼女が持つ悲しい過去も一緒に現れてきます。彼女の過去は実に不憫で、彼女がどうして今回の一連の犯行に及んだのかを考えると一概に彼女を弾劾出来ないような気分にもなってきます。ですが、ロバートは容赦なく淡々とレディ・オードリーの秘密を暴き、最後はすべてが収まるべきところに収まる形で終焉を迎え、物語は予想外の結末を迎えます。事件が全て明らかになった後にもロバートはオードリー家の家名を守るために奔走し、国を渡って大活躍をします。やっぱりこの時代の英国紳士にとって家名の名誉は何より大事です。

レディ・オードリーを始めとする多くの人の願望や野望が錯綜し、複雑に絡み合いながらも最後まで冷静に状況に対応出来る精神力が強い人間が勝利を収める究極の神経戦です。親友の失踪の謎を求めて美しい夫人の隠された秘密を追いかけるロバート・オードリーと一緒にロンドンに向かう最終便の郵便電車に飛び乗り馬車を乗り継ぎ、荒野を何マイルも歩いてみてはどうでしょうか。ロバートは結構やさぐれた性格で、自分の行動に辟易しながらもクレアラとの約束を守る為には仕方ないとグチグチ言いながらも頑張る姿も面白いです。19世紀のイギリスで大ベストセラーになった女流作家の手によって生み出された珠玉のサスペンスを是非ご堪能ください。秋の夜長にピッタリの英国ミステリー、推理小説です。

レイディ・オードリーの秘密

レイディ・オードリーの秘密

  • 作者: メアリ・エリザベス・ブラッドン
  • 出版社/メーカー: 近代文藝社
  • 発売日: 2014/03/20
  • メディア: 単行本

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