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アメリカ文学の祖トウェインの名作「王子と乞食」 [本]

朝ドラでも有名な児童文学の傑作


王子と乞食 (岩波文庫 赤 311-2)人間は外見も大事だけどやっぱり最後は中身も伴わないとね!という素敵なテーマを2人の子供を主人公に据えた米国文学界の祖マーク・トウェイン(トウェーン)の傑作「王子と乞食」とご紹介しようと思います。トウェインというと「トム・ソーヤの冒険」と「ハックルベリー・フィンの冒険」が有名ですが、この「王子と乞食」はトウェイン自身が深く愛した作品として有名です。そして日本では数年前にNHKの朝ドラで高視聴率を記録した「花子とアン」の主人公村岡花子さんの翻訳で岩波文庫から現在でも出版されています。私はドラマを見ていなかったのですが、劇中で花子がこの「王子と乞食」を翻訳しているシーンがあるそうですね。女性が翻訳を手掛けたせいか、児童文学に相応しく優しい日本語で丁寧に翻訳されているのでとても読みやすい作品になっています。では、そんな話題作のあらすじをどうぞ。

英国の王子エドワードとロンドンの貧民街で乞食として生きるトムは、同じ日に生まれた。容姿も良く似ていたことからふとしたことで入れ替わり、トムは憧れの宮廷生活を過ごすこととなり、エドワードは乞食として自国の庶民の生活を垣間見ることとなる。悪しき法律と無教養に支配された庶民の生活を知りエドワードは大きなショックを受ける。偶然出会った騎士マイルス・ヘンドンを護衛にエドワードの苦難に満ちた生活を通した真の王への成長を描く冒険物語。

設定は現代では見慣れたものなんですが、トウェインはこの2人、特に王子であるエドワードに結構過酷な試練を物語の中で与えています。乞食のトムと入れ替わったことで経験することを単なる王子様の冒険物語で終わることなく、自分が治める国が決めた法律と身分制度、特に社会の最下層の人々と暮らしぶりを実体験させることにより、それらが持つ問題点にエドワード自身が気付き、どう修正することが良いのかを自分で考えさせるというのがトウェイン流です。さすが一流の作家さんです。

勿論その過酷な経験をサポートするために心優しい優秀な貴族のマイルス・ヘンドンを登場させ、世間知らずで「自称王子」の頭が狂った残念な乞食にしか世間から見られないエドワードを体を張って守ります。会って早々に頭のおかしな子供を正気に戻してあげたいという優しい思いから、エドワードが王子であるとは全く思っていないながらも面倒をみることになったマイルスは安宿でエドワードにナイトを授与され、「夢と影法師の国=エドワードが王子だという英国」の騎士になり不思議な主従関係が結ばれます。

一方の乞食トムは暴力と飢えに苦しむ生活から快適な生活に馴染むのは簡単だったものの、これまでの教育の差だけは埋めることが出来ずに宮廷内の同じ年頃の子供達を上手く利用して王子役をギリギリこなしていきます。しかも周りの大人達は一切気付かない有様。しかしこちらも綱渡りの日々に神経をすり減らす生活に、イメージしていた憧れの宮廷生活とは違い、自分の身の丈にあった生活に対する思いを捨てきることが出来ません。富貴こそが全てではないということですね。

エドワードとトムの入れ替わった生活を通してトウェインの”外見が似てれば中身はどうにでもなる”という痛烈なアイロニーを前面に出しつつも、最終的には中身も肝心という結末に上手く落ち着きます。エドワード放浪中に父王が亡くなり、急遽自分が英国王として即位するはずが、自分は乞食と間違えられているために誰か(トム)が王位を継承することになるというピンチにエドワードがマイルスの庇護を受けることなく自力で奮闘し、トムとエドワードは戴冠式寸前で自分達が入れ替わっていることを皆に証明し、無事にエドワードが王位につきハッピーエンドを迎えます。

この物語の中でちょろっとしか出てこないらがらも印象的なのでトムの母親です。エドワードとトムが入れ替わりエドワードがイーストエンドのボロボロの家に戻っていた時にすぐに様子がおかしいことを見抜き、また最後は英国王エドワードとしてロンドンの街中を更新する立派に着飾ったトムを一目見てすぐに自分の最愛の息子トムだと見抜いた彼女は護衛兵を恐れることなくエドワード(トム)に向かって「愛しい倅よ」と呼びかけます。母の愛は海よりも深く偉大ですよ。結局この物語の中で2人が入れ替わっていることに気が付いたのはトムの母親だけだったというのもトウェインらしいですよね。

長編と言っても300ページと短い長編であっという間に読める作品です。小学校高学年~中学生の多感な思春期の時期に読んで欲しい作品ですね。みずみずしい感性を持った子供と大人の間にいる年齢層にピッタリの作品だと思います。親の庇護と現実の厳しさをしっかりと感じ取り、自分の頭で考えるためには何が必要かといったところまで考えることが出来れば素晴らしい読書体験になると思います。エドワードは国王として戻った後、乞食として生活した経験から学び、感じたとこを実践に移し、悪しき法律を廃止するなど結果を出します。また寛容の心を学んだエドワードは多くの慈悲の心を発揮し治世は短かったものの良き王として国を率いたとあります。もちろんすべてはトウェインの創作でありフィクションではありますが、心温まるエンディングに児童書が持つ特有の良さを感じます。自らの経験から何を感じ何が出来るか、それを考えることの重要性をエドワードを通じて描いた本作がトウェインのお気に入りの一冊だったことは納得がいきます。多感な年頃のお子さんをお持ちの親御さんには、夏休みのお子さんにお勧めする1冊として、不朽の名作吉野先生緒著の「君たちはどう生きるのか」と同じくらいおススメです(最高の賛辞です)。何度でも読み返したく素敵な魅力がつまった本作最高です。

王子と乞食 (岩波文庫 赤 311-2)

王子と乞食 (岩波文庫 赤 311-2)

  • 作者: マーク・トウェーン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1934/07/25
  • メディア: 文庫

  • 君たちはどう生きるか (岩波文庫)

    君たちはどう生きるか (岩波文庫)

    • 作者: 吉野 源三郎
    • 出版社/メーカー: 岩波書店
    • 発売日: 1982/11/16
    • メディア: 文庫



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