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ゲルマン流大復讐劇「ニーベルンゲンの歌(後編)」 [本]

復讐に燃えるヒロインは鬼女に変身!!


ニーベルンゲンの歌 後編 (ちくま文庫)前回に引き続きゲルマン英雄譚「ニーベルンゲンの歌」後編をご紹介したいと思います。前編で愛する夫ジークフリートを暗殺されたクリームヒルトは10年以上に及び悲しみに沈みひっそりと暮らしていたものの、夫を殺したハーゲンに復讐することだけを誓って物語にカムバックを果たします。そのカムバックの仕方も凄く、復習の為だけに自分の兄(グンター王)と同じ位権勢あるフン族のエッツェル王から来た結婚話にOKを出し再婚をするというもの。そして何もかもを失った彼女は権力と戦力を再び手にし血で血を洗う壮絶な復讐戦を始めます。それでは後編のあらすじをどうぞ。

グンター王の家臣ハーゲンによって殺害された夫ジークフリートの復讐をするため、クリームヒルトはフン族のエッツェル王と再婚する。クリームヒルトを愛するエッツェル王と家臣は新王妃の為に心から尽くし子供も授かるがクリームヒルトの心は”復讐”以外何もない。機が熟したとみた彼女はエッツェル王に饗宴を開き自分の兄弟達をもてなしたいと提案する。心優しいエッツェル王は賛成し、すぐにグンター王に使者を送る。その知らせを聞いたグンター王達一行はクリームヒルトによる策略を疑いつつも饗宴に参加する為フン国に向かう。

えー、改めて書いておきますが、クリームヒルトはこの物語のヒロインです。ヒロインが復讐心に駆られて史上最悪の大虐殺を企画するという凄い展開をしております。「ニーベルンゲンの歌」の後編はクリームヒルトの復讐劇なので、これからはフン国で行われる饗宴は当然復讐の場となり血まみれになります。ではここでクリームヒルトの復讐の刃が向かっている物語の悪玉ハーゲンを紹介します。

ハーゲンはブルグント国のグンター王に仕える臣下で歴戦の戦士です。王妹でありながらブルグント国に禍をもたらしたクリームヒルトを最初から国の敵と考えブルグント国安泰の為にジークフリートを殺害し、またグンター王のフン国行きにはクリームヒルトの策略を感じ取り最後まで反対します。妖精たちとお話が出来る特技なんかも持っています。戦士としての腕前も凄まじく、ハーゲンと同等に戦える強さを持っているのは彼の親友フォルカーだけという最強の戦士です。しかし強欲な一面があり、ジークフリートから奪い取ったニーベルンゲンの財宝を独り占めをもくろみ一時的にライン川に沈めるも、自身の死によってそれを再び見ることは出来ずじまいに終わります(その時唯一沈めなかったのがジークフリートの愛剣。以後はこれを愛用)。物語の中では傲慢で残酷な人物として描かれていますが、ジークフリートを罠に嵌められるだけの知略と窮地にも臆しない豪胆な性格で、まさにゲルマン物語の中に登場する英雄の要素を全部兼ね備えた人物でもあります。私の感覚ではこのハーゲンこそクリームヒルトのダメ女っぷりを見抜いた人であり、国の為に尽くしているので忠臣だと思うのですが・・・(汗)

グンター王は1600人の家臣と9000人の従者達と一緒にフン国に向かいますが、途中ハーゲンが水の妖精から予言された通り、フン国でクリームヒルトの策略により皆殺しとなってしまいます。自分とエッツェル王との子供をみんなの前でハーゲンに殺させ、それを理由にクリームヒルトはグンター王一族を敵とし、宴の会場を殺戮会場へと変えます。グンター王の家臣たちは奮戦凄まじく膝の下まで血が溜まり、喉が渇いたら死体から血をすするという地獄絵図。そんな戦場となった場所に火を放ち更に追い打ちをかけようとするクリームヒルト。エッツェル王の嘆きも聞こえずヒロイン大暴走です。最後は捕らえられた自分の兄グンター王の命を奪うよう命じ、その首を同じく捕らえられたハーゲンに突き出した後に元は愛するジークフリートの剣だったバルムンクでハーゲンの首を落とし遂に復讐を遂げるのです。しかーし、その場にいた武人ヒルデブラントによりクリームヒルトもバルムンクで殺されてしまいます。そして物語の締めくくりは冒頭と同じ「歓びは最後には決まって悲しみをもたらすものである」で終わりを迎えます。

この物語は悲しみの物語であると解説にありますが私には悲しみではなく復讐の物語にしか読めませんでした(汗)。前半ではグンター王妃ブリュンヒルトの復讐でジークフリートは殺害され、後半ではジークフリートの復讐でクリームヒルトが一族皆殺しにします。でも前回も書いた通りジークフリートが殺されるきっかけとなったのは全部クリームヒルトの失言からなので、全体的に見たらクリームヒルトというダークサイドヒロインがもたらす死に支配された物語と言えるのではないでしょうか。考えようによっては同情を引くのかもしれませんが、私にはちょっと無理でした。しかしながら数多く登場するグンター王の騎士達や全ての悲しみに終止符を打つディートリヒとヒルデブラント等、魅力的なキャラクターが綺羅星の如く活躍し読んでいて楽しかったです。ハーゲンの親友フォルカーは無双の戦士でありながらも戦士たちの心に安息をもたらすバイオリンの名手だったりします。私の一番のお気に入りはクリームヒルトの弟ギーゼルヘア。麗しい容姿に彼の姉思いの発言と心を失ったクリームヒルトさへもギーゼルヘアだけは恨まなかったという善の心の持ち主です。彼こそ隠れたヒーローだわ。勇猛果敢ながら心が優しすぎてゲルマン的には英雄になれなかったようなのが残念です。

ドイツの古典文学の最高傑作として名高い「ニーベルンゲンの歌」ですが、この作品が後世に与えた影響は大きく、ワーグナーの壮大なオペラ「ニーベルゲンの指輪」もここからきています。ゲルマン族の原点ともいえる本作、血みどろの戦いがOKな方は読んでみることをおススメします。何だかんだ言っても嫌いになれない不思議な魅力あるゲルマン的勇猛さとは何かを学べる傑作です。

ニーベルンゲンの歌 前編 (ちくま文庫)

ニーベルンゲンの歌 前編 (ちくま文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/04/08
  • メディア: 単行本
ニーベルンゲンの歌 後編 (ちくま文庫)

ニーベルンゲンの歌 後編 (ちくま文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/04/08
  • メディア: 単行本

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