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ゲルマンの英雄叙事詩 「ニーベルンゲンの歌(前編)」 [本]

ゲルマンの雄々しき英雄ジークフリートの物語


ニーベルンゲンの歌 前編 (ちくま文庫)現在のドイツをベースに北部ヨーロッパで広く人気がある英雄ジークフリート。そんな彼の人生を描いた叙事詩が「ニーベルンゲンの歌」です。西暦1000年頃に完成されたと言われているので、日本では「源氏物語」が書かれた頃と同じですね。「ニーベルンゲンの歌」は古代ゲルマン語の詩であり、詩を使って長い物語を歌いあげています。ですが、中身は実に男性的で愛と冒険と戦いの物語であり、前半は英雄ジークフリートの活躍と暗殺の物語で、後半は夫を殺された妻クリームヒルトの壮絶な復讐劇とかなり物語の前半と後半で内容が大きく変わります。今回は英雄ジークフリートの大活躍から裏切りによる暗殺までを描いた前編をご紹介したいと思います。まずは前半のあらすじをどうぞ。

ネーデルランドの王子ジークフリートは竜をも退治する勇敢な王子様。そんな彼はブルグント国の王の妹で絶世の美女クリームヒルトを妻に迎えたいとブルグント国に出向きグンター王の客となる。ジークフリートの活躍で幾多の困難を乗り越えることが出来たグンター王は、自身がアイスランドの女王ブリュンヒルトを妻にすることに協力をしてくれたらその見返りとしてクリームヒルトをジークフリートに妻にすることを約束する。ジークフリートの協力でグンター王はブリュンヒルトを、ジークフリートはクリームヒルトを妻に迎えるも、ここから悲劇が始まることに・・・。

勇猛果敢なジークフリートが愛剣バルムングを片手にクリームヒルトを妻にすべく命を賭けて数々の冒険に挑む姿はとても勇ましいです。力強く常に思考も真っ直ぐで、戦場でも切り込み隊長となって獅子奮迅の戦いで全身血だらけの姿に、ドイツの人々がイメージする英雄像とはこんなにも血生臭いものなのかと思い知らされます(イギリスのアーサー王とは全く違います)。そんなジークフリートが思いを寄せるクリームヒルトも王妹の身分にふさわしく清楚で美しく控えめな上品な絶世の美女として登場します。この二人はお似合いのカップルですが、物語の最初から二人が迎える悲しい結末が物語の端々で歌われていて、クリームヒルトは「夫を失い、愛を捨てる」と、ジークフリートに関しても「彼の一族が滅びる」や「二度と戻ることはなかった」と非業の死を迎えることが書かれています。

前半の物語の山場となる「グンター王の嫁取り」ですが、ジークフリートの知恵と協力でグンター王は無事にブリュンヒルトを妻に迎えます。が、全ての災いはこのグンター王妃ブリュンヒルトがブルグント国に来た事から始まります。このブリュンヒルトは力自慢の王女で、初夜に夫であるグンター王に触れられるのが嫌だからという理由で夫を縛り天井から吊るすというトンデモ女だったのです!!しかも、もともとアイスランドの女王であったブリュンヒルトはプライドも人一倍高く、グンター王の部下であるジークフリートとその妻クリームヒルトが自分たちに貢物を持ってこないことに不平タラタラという有様(ジークフリートはグンター王の部下ではないのですがブリュンヒルトの中ではそうなっている。グンター王の説得も耳を貸さず)。頼まれたから嫁に来たのにプライドを傷つけられた上に、夫であるグンター王が実はジークフリートと共謀して自分を騙していたことが発覚し遂に矜持はボロボロに。そして王妃の悲しみと国家のプライドに関わる問題として、グンター王の家臣ハーゲンがジークフリートを暗殺するのです。

ここまで読むといかにブリュンヒルトがとんでもない女かと思いますが、これ以上に酷いのがヒロインのクリームヒルトだったりします。どうもこの方”口は禍の元”タイプのヒロインで、不満を持つブリュンヒルトに不用意な言葉で彼女を更に追い詰めたり、夫が殺されるのではないかと心配しながらも何故か夫の弱点をペロッとハーゲンに教えてしまいます。まとめると、ブリュンヒルトがブチ切れたのも、夫ジークフリートが殺されたのもクリームヒルトが感情に任せて口走った言葉が引き金なんですね~。物語の2人のヒロインがここまで困ったちゃんだと物語もおかしな方向に当然進んでいきます。

夫ジークフリートを失い未亡人となったクリームヒルトはライバル・ブリュンヒルトにも相手にされることがなくなり、彼との間に生まれた子供をも捨ててしまいます。すべてを失ったクリームヒルトは12年間もジークフリートの死を嘆き、夫を殺したハーゲンに復讐することだけを考えて過ごすことになってしまいます。物語の最初にクリームヒルトに関して歌われた「愛を失う」とは、夫を失うということだけではなく、人間に対する愛を失うということで、ここから物語の後編怒涛の「クリームヒルトの復讐編」へと移っていきます。

この「ニーベルンゲンの歌」を読んだ第一印象はとにかく強すぎるヒロイン達の恐ろしさです。現在の北ヨーロッパ(特にドイツ)の女性もこんな感じなんでしょうかね?しかも更に恐ろしいことは、ダンナを縛りあげるブリュンヒルトの行為も復讐に燃えるクリームヒルトの残虐な行いに関しても物語の中でそんなに否定的に書かれていないということ!力こそ全て、という実に単純明快な真理が描かれていてビックリです。そしてここから血みどろの復讐戦へと繰り出すクリームヒルトのすがすがしいまでの極悪非道な生き様を次回ご紹介したいと思います。はっきり言って、かなりヤバイです!!お楽しみに!!

ニーベルンゲンの歌 前編 (ちくま文庫)

ニーベルンゲンの歌 前編 (ちくま文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/04/08
  • メディア: 単行本
ニーベルンゲンの歌 後編 (ちくま文庫)

ニーベルンゲンの歌 後編 (ちくま文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/04/08
  • メディア: 単行本

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